福岡高等裁判所 昭和63年(ネ)158号 判決 1988年7月20日
控訴人 株式会社一光
被控訴人 国
代理人 金子順一 平良晶 ほか三名
主文
原判決主文第一項を取り消す。
被控訴人の本訴請求を棄却する。
控訴人の反訴請求に対する控訴を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じこれを三分し、その二を被控訴人の、その余を控訴人の負担とする。
事実
一 控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の本訴請求を棄却する。控訴人が、福岡法務局昭和六一年度金第一三一三号の供託金六二万円の還付請求権を有することを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
二 当事者双方の主張及び証拠の関係は、当事者双方が当審において「本件債権差押通知と債権譲渡通知とが同時に第三債務者組合に到達したことは争わない。」と述べたほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
理由
第一本訴について
一 請求原因に対する判断
当裁判所の本訴請求原因1ないし4に対する認定、判断は原判決のそれと同一(原判決六枚目表一〇行目から同六枚目裏九行目まで。)であるから、これを引用する。
二 抗弁に対する判断
控訴人が、昭和六〇年九月一八日、債務者会社から本件債権を譲り受け、債務者会社は第三債務者組合に対し、同年九月一九日の確定日付のある内容証明郵便をもつて右債権譲渡の通知をし、右通知が同月二四日第三債務者組合に到達したこと、同じく同月二四日に第三債務者組合に到達した前記債権差押通知と右債権譲渡通知の各到達時の先後関係は不明であり、このため右各通知は同時に第三債務者に到達したものとして取り扱うほかはないこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
ところで、一般に、指名債権が二重に譲渡され、確定日付のある各譲渡通知が同時に第三債務者に到達した場合における各譲受人相互の優劣関係については見解が分かれ、議論の存するところであるが、右の場合、各譲受人は互いに他の譲受人に対して自己のみが唯一の優先的債権者であると主張することは許されない結果、確定日付のない通知による二重譲受人相互の関係と同様にみて、各譲受人とも第三債務者に対し自己の債権の優先を主張することはできないと解するのが相当である。そして、この理は、本件のように、指名債権の譲渡にかかる確定日付のある譲渡通知と、右債権に対する債権差押通知とが同時に第三債務者に到達した場合における、債権譲受人と差押債権者との優劣関係についても同様に妥当するものというべく、この場合を特に別異に解さなければならない理由はないので、本件において、差押債権者たる被控訴人も、また、債権譲受人である控訴人も、相互に優先的地位にある債権者であると主張することは許されず、その結果、何れも第三債務者組合に対し、自己の債権の優先を主張しうる地位にはないというべきである。
よつて、控訴人の抗弁は理由があり、被控訴人の本訴請求は、失当として棄却を免れない。
第二反訴請求について
一 請求原因に対する判断
請求原因事実は、当事者間に争いがない。
二 抗弁に対する判断
被控訴人主張の抗弁事実が認められること、また、控訴人が差押債権者である被控訴人に対し、ひいては第三債務者組合に対し、自己の債権が優先することを主張しえないことは前記第一の二において説示したとおりである。
よつて、被控訴人の抗弁は理由があり、本件反訴請求は、失当として棄却すべきである。
第三結論
よつて、原判決中、被控訴人の請求(本訴)を認容した部分は、不当であるからこれを取り消し、右請求を棄却し、また、控訴人の請求(反訴)を棄却した部分は、相当であるから、右部分に対する控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九五条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 高石博良 富田郁郎 松村雅司)
【参考】第一審(福岡地裁昭和六二年(ワ)第一四三三号、第三〇九三号 昭和六三年二月二六日判決)
主文
一 原告(反訴被告)が、福岡法務局昭和六一年度金第一三一三号の供託金六二万円の還付請求権の取立権を有することを確認する。
二 被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。
三 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、被告(反訴原告)の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
(本訴について)
一 請求の趣旨
1 主文第一項と同旨
2 訴訟費用は被告(反訴原告、以下「被告」という。)の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告(反訴被告、以下「原告」という。)の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(反訴について)
一 請求の趣旨
1 被告が、福岡法務局昭和六一年度金第一三一三号の供託金六二万円の還付請求権を有することを確認する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 主文第二項と同旨
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第二当事者の主張
(本訴について)
一 請求原因
1 原告は、株式会社藤前ウンユーシステム(債権差押時の商号は太進運送株式会社。以下「債務者会社」という。)に対し、昭和六〇年九月二四日現在で、次のとおり、二四四万五三〇四円の租税債権を有していた。
年度
税目
納期限
本税
加算税
延滞税
計
58
源泉所得税
昭和年月日五九・七・二〇
円
一八六万七一〇四
円
一七万七〇〇〇
円
四〇万一二〇〇
円
二四四万五三〇四
2 債務者会社は、九州運輸センター協同組合(以下「第三債務者組合」という。)に対し、昭和六〇年九月二四日現在において、同年八月一日から同月三一日までの間の運送代金支払請求権六二万円(以下「本件債権」という。)を有していた。
3 原告の香椎税務署徴収職員は、前記租税債権を徴収するため、債務者会社が第三債務者組合に対して有する本件債権を、昭和六〇年九月二四日、国税徴収法四七条及び六二条の規定に基づき、履行期限を同年九月三〇日と定めて差し押さえ、右債権差押通知は、即日第三債務者組合に交付送達された。
4 第三債務者組合は、本件債権につき被告が債権譲渡を受けた旨の確定日付のある債権譲渡通知が、昭和六〇年九月二四日、第三債務者組合の北九州営業所(北九州市小倉北区所在)に到達しており、右債権差押通知と債権譲渡通知のいずれが早く到達したか判明しないとして、債権者不確知を理由に、昭和六一年六月一七日、民法四九四条の規定により、請求の趣旨一項記載のとおり、六二万円を供託した。
原告(福岡国税局長)は、念のため、昭和六二年三月二三日、右供託金につき債務者会社が取得した供託金還付請求権を差し押さえるとともに、同月二五日、債権差押通知を福岡法務局供託官に送付した。
5 よつて、原告は、被告との間で、本件供託金六二万円の還付請求権の取立権を有することの確認を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は不知。
2 同2の事実は認める。
3 同3の事実は不知。
4 同4のうち、供託の事実は認めるが、その余の事実は不知。
三 抗弁(仮定抗弁)
仮に請求原因1及び3の各事実が認められるとしても、被告は、昭和六〇年九月一八日、債務者会社から本件債権を譲り受け、債務者会社は第三債務者組合に対し、同年九月一九日の確定日付のある内容証明郵便をもつて右債権譲渡の通知をし、右通知は、同月二四日、第三債務者組合に到達した。
しかして、債権差押通知と債権譲渡通知が第三債務者に同時に到達した場合には、その優劣を決することができないから、差押債権者及び債権譲受人は、互いに、債権者の地位にあることを主張し得ないというべきであり、仮に、互いに、債権者の地位にあることを主張し得るとしても、それぞれが、右債権を平等の割合をもつて分割取得するものと解される。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実は認める。
しかし、本件のように、債権差押通知と債権譲渡通知が第三債務者に同日に到達し、一定の幅の中で到達の先後関係が不明の場合には、同時に到達したものとして評価すべきであり、この場合には、差押債権者及び債権譲受人は、互いに、債権者の地位にあることを主張することができ、かつ、それぞれが全額について債権を有することになる(平等の割合をもつて分割取得することにはならない)と解されるから、被告の抗弁は主張自体理由がない。
(反訴について)
一 請求原因
1 債務者会社は、第三債務者組合に対し、昭和六〇年九月二四日現在において、本件債権を有していた。
2 被告は、昭和六〇年九月一八日、債務者会社から、本件債権を譲り受け、債務者会社は第三債務者組合に対し、同年九月一九日の確定日付のある内容証明郵便をもつて右債権譲渡の通知をし、右通知は、同月二四日、第三債務者組合に到達した。
3 第三債務者組合は、本件債権につき原告を差押債権者とする債権差押通知が、昭和六〇年九月二四日、第三債務者組合に到達しており、右債権譲渡通知と債権差押通知のいずれが早く到達したか判明しないとして、債権者不確知を理由に、昭和六一年六月一七日、民法四九四条の規定により、請求の趣旨一項記載のとおり、六二万円を供託した。
4 よつて、被告は、原告との間で、本件供託金六二万円の還付請求権を有することの確認を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし3の各事実は、すべて認める。
三 抗弁
本訴請求原因1及び3に同じ。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実は不知。
第三証拠 <略>
理由
第一本訴について
一 請求原因について
<証拠略>によれば、請求原因1(租税債権)の事実が認められ、同2(債務者会社の第三債務者組合に対する本件債権)の事実は当事者間に争いがない。
<証拠略>を総合すると、同3(原告による本件債権の差押及び右債権差押通知が昭和六〇年九月二四日に第三債務者組合に交付送達されたこと)の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。したがつて、原告は、国税徴収法六七条一項の規定により、本件債権の取立権を取得したものと認められる。
同4のうち、第三債務者組合が原告主張のとおり供託をしたことは当事者間に争いがない。
二 抗弁について
被告が、昭和六〇年九月一八日、債務者会社から、本件債権を譲り受け、債務者会社は第三債務者組合に対し、同年九月一九日の確定日付のある内容証明郵便をもつて右債権譲渡の通知をし、右通知が、同月二四日、第三債務者組合に到達したことは、当事者間に争いがない。
そこで、いずれも同月二四日に第三債務者組合に到達した右債権差押通知と右債権譲渡通知の各到達時の先後関係についてみるに、<証拠略>によると、第三債務者組合北九州支店の職員は、同月二四日、被告による右債権差押通知を受領したので、すぐにその旨第三債務者組合の本部(福岡市東区所在)に電話連絡したところ、本部から、「つい先程、本件債権につき原告による債権差押通知書を受領したところである。」との返事を受けたことが認められるものの、他に右先後関係を確定するに足りる的確な証拠はない。右認定事実によれば、右先後関係は不明といわざるを得ないけれども、右各通知が、きわめて近接した時間の幅の中で第三債務者組合に到達したものであることは明らかであるから、このような場合においては、右各通知は同時に第三債務者に到達したものとして取り扱うのが相当と解される。
そこで、指名債権の譲渡にかかる確定日付のある譲渡通知と右債権に対する債権差押通知とが同時に第三債務者に到達した場合における、債権譲受人と差押債権者との優劣関係について検討するに、債権差押の効力は、債権差押通知が第三債務者に到達したときに発生するのであつて、かつ、この効力を第三者に対抗するために一定の要件を要する旨の規定はないから、債権差押通知と同時に債権譲渡通知が到達した場合であつても、右債権差押の効力は債権譲受人に及ぶと解さざるを得ないところ、一方、債権譲渡については、第三債務者に対する確定日付のある証書による通知または承諾がない限り、第三者に対抗し得ない旨規定されている(民法四六七条二項)のであるから、債権差押通知より先に債権譲渡通知が第三債務者に到達したのでなければ、債権譲受人は第三者たる差押債権者に対抗し得ず、右各通知が同時に第三債務者に到達した場合においては、債権譲渡の効力は差押債権者に及ばないものと解される。したがつて、右各通知が同時に第三債務者に到達した場合における差押債権者と債権譲受人との関係は、指名債権が二重に譲渡され、各債権譲渡通知が同時に債務者に到達した場合における各譲受人のように、相互に優先的地位を主張し得ないため、その優劣を決定し得ないという関係とは異なり、債権譲受人のみが一方的に債権差押の効力を受ける、すなわち、差押債権者が債権譲受人に優先する関係にあるものということができる。
被告は、原告と被告の優劣を決定し得ないことを前提として、両者の法律関係につき種々主張するけれども、以上によれば、被告の右主張はその前提を欠くものであつて、結局、被告としては、その債権譲渡通知が原告による債権差押通知よりも先に第三債務者組合に到達したことを主張立証しない限り、原告による債権差押が無効であるということができないと解されるから、抗弁は採用することができない。
三 よつて、原告の本訴請求は理由がある。
第二反訴請求について
一 請求原因事実はすべて当事者間に争いがない。
二 抗弁事実が認められることは前記第一の一でみたとおりであり、原告が対抗要件の有無を問題としていることは明らかである。
三 そうすると、民法四六七条二項の規定により、被告としては、その債権譲渡通知が原告による債権差押通知よりも先に第三債務者組合に到達したことを主張立証しない限り、原告に対抗し得ない(前記第一の二でみたとおり、右各通知が同時に到達したことをいうのみでは原告による債権差押の効力を否定することができない)ところ、そのような事実が認められず、かえつて、右各通知は第三債務者組合に同時に到達したものとみるべきことは、前記第一の二で説示したとおりであるから、結局、被告の反訴請求は理由がない。
第三結論
よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 倉吉敬)